解説詳細

間質性肺炎

―ガス交換に必要な肺胞が傷害される難病―

どんな病気?

肺炎という病名は馴染みのある言葉と思いますが、その前に「間質性」と形容詞がつくと聞き覚えのない病名と感じると思います。肺は、換気(空気を吸い込んだり、はき出したりする)とガス交換(吸った空気の中の酸素を取り込み、二酸化炭素を体外に呼出する)、という2つの働きをしています。空気は気道を介して出入りしますが、気道の最も奥に「肺胞」と呼ばれる、大きさ0.1 - 0.2 mmの袋状の多数の部屋があり、ここでガス交換が行われます。肺胞は、左右の肺を合わせて約3 - 6億個あり、ガス交換に関わる表面積の総和は体表面積の約25倍(おおよそ40 - 80 m2)で、その表面積はテニスコートの約1/4にもなります。肺胞の壁は薄いところでは1μmと非常に薄く、たくさんの血液が流れています。ですから、肺胞は効率よく酸素を血液に送りこみ、二酸化炭素を排出することができます。一般の方に馴染みの深い肺炎(細菌性肺炎)という病気は、主に肺胞の袋の中で細菌が増殖して、好中球を主とする炎症細胞が遊走し、浸出液で満たされてしまう病気です。レントゲン写真では、ベタッとした白さの陰影が肺の一部に見られます。一方、間質性肺炎は、さまざまな原因からこの薄い肺胞壁に炎症が起こり、壁が厚く硬くなり(線維化)、呼吸をしてもガス交換ができにくくなる病気です。レントゲン写真では、両方の肺にすりガラス状の淡い陰影がみられるのが特徴です。

特徴的な症状は、体動時の息切れと咳です。安静時には感じませんが、坂道や階段を昇る際に感じるようになり、進行すると平らなところを歩いても、あるいは入浴・排便などの日常生活の動作で感じるようになります。咳は痰を伴わない咳が一般的で、しつこい咳に悩まされる方もいます。一般に、病気はゆっくりと進行してくるので自覚症状が出現するようになりますが、「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」といって、感冒などの感染を契機に急速に病気が進行して自覚症状も急激に悪化し、入院治療が必要になる場合もあります。

原因や病気の頻度は?

間質性肺炎の原因には、様々なものがあります。①関節リウマチ、多発性皮膚筋炎、強皮症などに代表される膠原病(自己免疫疾患)、②職業や生活環境上での粉塵(ほこり)、カビ、ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入に対する過敏反応、③薬剤、漢方薬、サプリメントなどの健康食品などによる肺傷害、④特殊な感染症。しかし、原因を特定できない場合も多くあります。 いろいろ検査しても原因が特定できない間質性肺炎は、「特発性間質性肺炎」と呼ばれます。特発性間質性肺炎は、総称名であり、以下のような異なる病気が含まれます。特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、器質化肺炎、剥離性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、リンパ球性間質性肺炎、急性間質性肺炎の7つです。頻度からすると特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、器質化肺炎の3つがほとんどを占めます。特発性間質性肺炎は難病に指定され、公費助成の対象疾患になっています。もっと詳細な情報を知りたい方は難病のホームページをご覧下さい。 間質性肺炎全体の頻度はよくわかっていませんが、「特発性間質性肺炎」では10万人あたり10 - 20人程度といわれています。しかし、息切れなどの自覚症状をあまり感じていない軽症の方は、この10倍以上はいるだろうと推測されています。特発性間質性肺炎は、性別では男性は女性よりやや多く、発症は通常50歳以降になります。

どのように診断するのか?

一般に、病院を受診する契機には、体動時の息切れ、咳、健康診断の胸部レントゲンで異常を指摘された、などが多いようです。自覚症状、喫煙歴、粉塵曝露歴を含む職業歴や居住環境、既往歴や他疾患の服薬状況、サプリメントなどの摂取状況、家族歴、などをよく尋ねて検討します。間質性肺炎は一般に喫煙が関与している可能性を指摘されています。その他、肺機能検査、血液検査、胸部高分解能CT画像(HRCT)、病気の経過や進行スピードを理解するために今までの健診時のレントゲン写真を集める、などが必要になります。 特発性肺線維症は特発性間質性肺炎の中でもっとも多いものですが、50歳以上に潜行性に発症し、背中側の聴診で(主に両側下肺野)特徴的な断続性ラ音(捻髪音とも呼ばれ、髪の毛をこすり合わせた際の音に類似している)が聞かれ、HRCTで蜂巣肺を認める、等の特発性肺線維症の特徴的所見が揃っていれば診断できるとされています。それ以外の6つの疾患については胸腔鏡による外科的な肺生検による組織診断が必要であるとされています。肺生検にはリスクもあります。間質性肺炎では肺に傷ができると治りにくい性質があるため、生検後に難治性気胸となることがあります。肺生検は、その必要性とリスクをよく考えて選択する診断法です。

どのような治療をするのか?

喫煙者であればすぐ禁煙してもらいます。息切れなどの自覚症状がほとんどない患者さんは、禁煙のみで病態が改善することもあるからです。特発性間質性肺炎に含まれる7つの疾患で治療法は異なります。特発性肺線維症では、息切れや咳などの自覚症状があり、検査所見に進行を認めるようであれば治療が必要です。抗酸化作用をもつ薬剤の吸入、抗線維化作用の薬剤、ステロイドとある種の免疫抑制剤などの併用など、治療法があります。特発性肺線維症以外では、多くの場合、ステロイドを主とする免疫抑制剤が使用されます。病気が進行し呼吸で酸素を十分取り込めない場合には、在宅酸素療法といって日常生活で酸素を吸入する治療が必要になります。このような状況では、肺高血圧を合併することも多くなります。また、若年者で重症例では脳死肺移植の適応も検討する必要があります。

病気の経過中は、どのような点に注意したらよいか?

長期間の治療が必要な慢性疾患のため、患者さん自身による、風邪の予防、禁煙、体重管理(太りすぎない)、規則正しい生活など、日常生活の管理が大切です。治療に伴う副作用として、光線過敏症、感染症、糖尿病、高血圧などを合併しやすいためです。特に風邪の予防は、増悪の予防としても大切です。経過中に20%前後のヒトに肺癌が合併することが知られています。診断当初には明らかでなかった膠原病が明らかになることもあります。

間質性肺炎と気胸

間質性肺炎では、線維化以外にブラが形成されることがあり、気胸や縦隔気腫を合併することが多いことが知られています。一方、間質性肺炎では、気胸を合併した場合には、治りにくいことも知られています。間質性肺炎の肺は、硬く膨らみにくい肺であるためです。治療に使用されるステロイドは炎症や間質の浮腫、肺胞腔内の器質化を抑制することが知られていますが、一方では組織の修復機転を抑制することが知られています。そのため、ステロイド使用例では不使用例に比べて気胸を合併しやすく、ステロイドや免疫抑制剤治療中に生じる気胸ではさらに不利な要因となってしまします。間質性肺炎に合併した気胸に対し、特別な治療法があるわけではありません。COPDに合併した気胸のような二次性気胸に対する場合と同様です(自然気胸、COPDの説明部分を参照してください)。間質性肺炎に合併する気胸で注意するべきことは、気胸を契機に間質性肺炎が急性増悪することと、難治性気胸改善しないうちに二次感染を起こしてくることです。ステロイドや免疫抑制剤を使っている患者さんはさらにこの危険性が高まります。その結果、慢性膿胸になって重症化してしまうことがしばしばあります。

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